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医療行政ブログ【MS法人の活用】

気づけばもう11月になっておりました!あまりに早い時間の流れに呆然とします。

さて、ここのところ、MS法人の活用についてご相談を受けるケースが増えております。MS法人とは、メディカルサービス法人の略で、特にそういう組織がある訳ではなく、医療法人若しくは医療機関を運営される個人の先生が、その医療機関の運営補助として独自に運営されている会社の総称です。個人の間は問題にならないのですが、医療法人におけるMS法人とのやり取りは、近年慎重に慎重を重ねなければならなくなりました。

医療法人は原則「非営利」ですので、やはり営利事業に関わることが出来てしまう環境のある先生方は、どうしてもそこで得られない利益をもったいないと感じられますよね。例えば医療法人名義の土地が余っていて有効活用できる、賃貸の駐車場にしたいな、とか、薬や医療機器のメーカーさんがせっかく「先生、これだけ入れてくださるならキックバックしますよ!」と自主的に言ってくださっても、医療法人で利益勘定にせざるを得なくなる収入は受け取れないしな、とか。

お金の流れは税金がついて回るお話になりますので、原則税理士先生とのお話合いが欠かせませんが、税理士先生が医療法人税理にあまり慣れていらっしゃらない場合、少々厄介な問題が近年では発生してしまいます。

医療法人においては、年1回事業報告が義務付けられていますが、その事業報告の際に本年度から「関係事業者との取引に関する状況に関する報告書(東京都の名称)」を提出しなければならなくなりました。こちらに該当するのは

(1) 当該医療法人の役員又はその近親者(配偶者又は二親等内の親族)
(2) 当該医療法人の役員又はその近親者が代表者である法人
(3) 当該医療法人の役員又はその近親者が株主総会、社員総会、評議員会、取締役会、理事会の議決権の過半数を占めている法人
(4) 他の法人の役員が当該医療法人の社員総会、評議員会、理事会の議決権の過半数を占めている場合の他の法人
(5) (3)の法人の役員が他の法人(当該医療法人を除く。)の株主総会、社員総会、評議員会、取締役会、理事会の議決権の過半数を占めている場合の他の法人

となっております。つまり、医療法人の役員(理事や監事)に名前がある方、またその近親者が役員を務める会社との間で

(1) 事業収益又は事業費用の額が、1千万円以上であり、かつ当該医療法人の当該会計年度における事業収益の総額(本来業務事業収益、附帯業務事業収益及び収益業務事業収益の総額)又は事業費用の総額(本来業務事業費用、附帯業務事業費用及び収益業務事業費用の総額)の10パーセント以上を占める取引
(2) 事業外収益又は事業外費用の額が、1千万以上であり、かつ当該医療法人の当該会計年度における事業外収益又は事業外費用の総額の10パーセント以上を占める取引
(3) 特別利益又は特別損失の額が、1千万円以上である取引
(4) 資産又は負債の総額が、当該医療法人の当該会計年度の末日における総資産の1パーセント以上を占め、かつ1千万円を超える残高になる取引
(5) 資金貸借、有形固定資産及び有価証券の売買その他の取引の総額が、1千万円以上であり、かつ当該医療法人の当該会計年度の末日における総資産の1パーセント以上を占める取引
(6) 事業の譲受又は譲渡の場合、資産又は負債の総額のいずれか大きい額が、1千万円以上であり、かつ当該医療法人の当該会計年度の末日における総資産の1パーセント以上を占める取引

の取引をしたら、全部報告しなさいよ、ということです。

収益の9割が本来業務・附帯業務における医業収入であれば申告義務はないということにもなりますが、その医業収入に関する仕入れのほとんどがMS経由だったとすると、これは引っ掛かってしまうということにもなります。また、医療法人が持っている土地建物(医療機関にかかる家賃等も含む)に関する賃貸や売買益をMSが行っており、その病院が一等地にあったりすると、申告義務となります。

問題なのは、これを行うことでMS法人が発覚して、どういう影響があるのか、ということです。現実的に、MS法人を運営してはいけないという法はありませんし、MS法人によって利益を得ていたからと言って、税務申告上差別化されるということも現状ではありません。

ただし、医療法人の役員との間における利益相反の問題は、必ず指摘されるところです。これは、平成24年3月30日に厚生労働省が出した「 医療法人の役員と営利法人の役職員の兼務について 」「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」という2つの通達によって明確化されています。やはり根本として、厚生労働省は医療によって営利をむさぼっているように見えるお金の流れを嫌がりますし、医療法人の役員及びその親族が関わる会社の動きについては慎重になる、ということです。

慎重になられたからと言って罰則が無いなら大丈夫でしょう、という考え方も、確かにあります。ただし、医療法人を大きくしたいと思ったとき、分院を作りたい、移転したいと思った時などに、どうしても都道府県の認可を受けなければならない医療法人の立場として、「一歩間違ったら指導を受けてもおかしくない」お金の流れは、日常的に控えるべきと考えます。

MSの代表(及び役員)は親族ではない方にして先生は株主という存在にとどめる、他所管の事業ではあっても管理者として名前が出ないようにするなど、医療法人の役員の方は役所に名前の出ない体制をできる限り作ることが、報告義務等無く安心して「一般の」経済活動ができることにもつながりますので、そのあたりの事前の打ち合わせを慎重にされることをお勧めいたします。